獅堂 光

大地の崩壊が進むセフィーロの民を保護すべき最後の砦たるセフィーロ城・・・
魔神を駆り未だ城内に保護する事の出来ない人々を捜索していた光が帰還した直後、城の最下層部にデボネアが放ったと思しき魔物が侵入したらしいと聞く。
だが、海や風はもとより、殆どの有力な戦士、魔導士たちは城から大きく離れている。
導師クレフはこれ以上の魔物の侵入を防ぐため、強化した結界の維持の為に動く事は出来ない。

魔物の正体も数も不明であり、潜んでいると思しき区画では巨体を誇る魔神が動く事は不可能だった。
だが、光は躊躇せず単身最下層部に駆けた。

幸い導師クレフの対処が迅速だったお陰か、薄暗い通路で蠢く闇の使徒たちの数はさほど多くはなく、強力な魔法を使う中・上級クラスの妖魔も存在しないらしい。
獅子奮迅に剣を奮い続けた光の視界から、ほぼ魔物達の忌まわしい姿が消え去り一息つこうとした瞬間だった。

———— えっ!?

突然周囲の壁があたかも飴細工の様にぐにゃりと崩れ、光の肢体に雪崩落ちてきた

慌てて飛び退こうと双脚に力を込めても、ブーツの底が泥沼に踏み込んだかの様に床へ沈み込む奇怪な感覚を覚えたのみ。
はっと気づけば、眼下の石畳も表面が波打ちグズグズと崩れてゆく。

———— しまった!! こいつ・・・ 魔物!?

瞬時に光の四肢を絡めとり自由を奪った奇怪な構造物の正体は、巧妙に体色を偽装し、壁と床と一体化して獲物を待ち受けていたスライム型魔獣だった。

「こっ、このオッ!? は、はなせぇぇーーーっっ!!!」

必死に足掻く光だったが、強粘着性の体液を一気に吹き出した半透明スライムに密着され剛力で締め付けられ、右手に握った剣も魔法も使う事は不可能だった。
あたかも魔界の邪悪なトリモチ罠に絡めとられたフェニックスの如く、華麗な真紅と黄金色があしらわれた魔法騎士の防具を粘液に汚されつつ拘束された光の足下から、ゆっくりと何本もの触手が伸びてくる。
触手のみにとどまらず、まるで異次元に続くトンネルの様に黒く染まった部分から、何かが這い出して来ようとしている。
くりぬいた眼球そのままの虚ろで不気味な目玉が光を凝視する。
極上の獲物を捕えたスライム魔獣の本体部に間違いなかった……
      

to be continue